ハイリターンが期待できる投資と言えば新興国投資が人気です。
その中でも一般的な投資先としてはインドがあります。日本人がインドの個別銘柄を買うことは出来ないのでインドに投資しようと思うと投資信託を買うのがメジャーな方法です。
インド株関連の投資信託では「野村インド株投資」が有名ですが、有名だからといって安易に投資するのは危険です。
「野村インド株投資」が実際どうなのか、きちんと分析して分かりやすく解説していきます。
インド市場に関する詳細はこちらをご一読ください。
野村インド株投資の特徴
ハイリターンを狙うアクティブファンド
野村インド株投資はいわゆるアクティブファンドとよばれるもので、ベンチマークより良い運用成績を目指すものです。
野村インド株投資のベンチ―マークは、MSCIインド・インデックス(税引後配当込み・円換算ベース)となっており、これを上回る投資成果を目指します。
※ベンチマークとは
比較の基準。日経平均など。一般的にアクティブファンドでは株式市場全体の動きよりも良い運用成績を目指すことになるので、マーケットの動きを表す基準として日経平均などが設定される。
アクティブファンドの特徴としては、手数料のコストが高い代わりにベンチマークを超えるハイリターンを狙うというものです。
なので手数料に見合った運用成果が出ているかどうかが一つ重要な要素となってきます。
具体的な運用手法とは
続いて野村インド株投資の運用手法を確認してみましょう。良いリターンを実現するためにいったいどんなことをしているのでしょうか。
参照:交付目論見書
比較的リスクの少ない大型株の中から、バリュエーション分析、ファンダメンタル分析を行いポートフォリオを決定しています。
選定方法としては特に問題はないかと思いますが、結局運用者の実力が大いに問われる手法となりますので実際に誰が運用しているのかは気になる所です。
運用者を確認すると、一部の権限をノムラ・アセット・マネジメント・シンガポール・リミテッドに委託とあるのみで、どこの誰が運用しているか分からないのが難点です。
選定の結果、最終的な銘柄数は41です。かなり絞り込んだ銘柄に投資していますのでリターンが出る時は大きいですが、損失が出る時のマイナスも大きくリスクは高い投資となっています。
投資先銘柄トップ10
続いて、具体的な投資先を確認してみましょう。投資先の銘柄数は41銘柄ですが、その内の上位10銘柄を見てみましょう。
2023年2月28日時点
銘柄 | 業種 | 比率 | |
1 | リライアンス・インダストリーズ | 石油・ガス・消耗燃料 | 10.2% |
2 | ICICI銀行 | 銀行 | 8.9% |
3 | インフォシス | 情報技術サービス | 7.6% |
4 | AUスモール・ファイナンス銀行 | 銀行 | 6.1% |
5 | HDFC銀行 | 銀行 | 6.1% |
6 | マルチ・スズキ・インディア | 自動車 | 4.8% |
7 | HDFC | 貯蓄・抵当・不動産金融 | 4.1% |
8 | マクロテック・デベロッパーズ | 不動産管理・開発 | 4.1% |
9 | ラーセン・アンド・トゥブロ | 建設・土木 | 3.3% |
10 | アクシス銀行 | 銀行 | 3.0% |
情報技術や銀行などが多くなっています。インドでは第二次産業である製造業が弱く、第三次産業が強いので自然な選択だと言えるでしょう。
実際にこの中でも上位の銘柄は他の投資信託でも組入れられることが多く人気が集中している銘柄となっています。ただし人気が集中している背景にはインドの投資環境が整っておらず選べる選択肢が少ないことも一因にあります。
いずれにせよ、投資先の銘柄が多くの投信でかぶってしまうような状況で特別な利益を出すことは非常に難しいです。インド株式市場の投資環境はかなり厳しい状況であると言えます。
運用効率が悪い分配金
野村インド株投資の分配金の有無についても確認しておきましょう。
参照:交付目論見書
野村インド株投資では毎年7月に分配が行われています。資産運用の効率性を考えるのであれば分配金を出すメリットはありません。
分配金を出すと運用の元手が減り、運用効率が悪くなってしまうからです。かみ砕いていえば、分配金を出すと投資家の受け取れるリターンが減ります。
投資家のためにならない分配金システムをなぜ採用しているのか。大いに疑問です。
高すぎる手数料
気になる手数料についても確認しておきましょう。投資信託の主な手数料は3つです。
- 購入する時の手数料
- 保有している間の手数料
- 解約する時の手数料
以上の3つですが、手数料が安い投資信託であれば①③の買う時・解約する時の手数料がかからないものもあります。
果たして野村インド株投資の手数料は高いのでしょうか?低いのでしょうか?新興国ファンドの投資信託「eMAXIS Slim新興国株式インデックス」と比較してみましょう。
野村インド株投資 | eMAXIS Slim新興国株式インデックス | |
購入時の手数料 | 3.3% | なし |
保有時の手数料 | 年2.2% | 年率0.1870% |
解約時の手数料 | 0.5% | なし |
eMAXISはインデックスファンドのため特に手数料が安いですが、それとは関係なく野村インド株投資の手数料は高いです。
仮に運用をスタートして1年間でやめたとしたら、購入時に3.3%、1年間保有して2.2%、やめる時に0.5%ですからたった1年間の運用で手数料は6%もかかることになります。
しかしながら、野村インド株投資は手数料が高い代わりにハイリターンを目指すアクティブファンドですので運用成績が良ければ問題ない訳です。
手数料と運用成績はセットで見なければ評価できません。という訳でこれまでの運用成績を確認していきましょう。
野村インド株投資の運用成績は
設定来の推移
参照:月次レポート
運用を開始した2005年から見れば右肩上がりで推移していますが、大きくマイナスになるタイミングもありかなり上下がある値動きとなっています。
運用資産額はピーク時には5000億円を超えるほど大きく、現在でも2500億円ほどと非常に大きくなっています。さすが野村さんの営業力ですね。
しかしながら、運用という観点で見るとこれだけ大きい資産規模だと投資できる銘柄も限られるためハイリターンを出すには難しい状況となっています。
データで見る運用成績
続いてこれまでの成績をデータで振り返ってみましょう。
1年 | 3年(年率) | 5年(年率) | 10年(年率) | |
トータルリターン | 1.33% | 9.64% | 5.45% | 9.97% |
標準偏差 | 15.99 | 24.72 | 22.40 | 22.04 |
シャープレシオ | 0.08 | 0.39 | 0.24 | 0.45 |
1年や3年では少し短期ですので、もっと長期で評価する必要があります。10年(年率)で見てみましょう。
10年間で年率平均9.97%とまずますの運用成績に見えますが、実は落とし穴があります。シャープレシオを見ると0.45となっています。
※シャープレシオとは?
シャープレシオ = リターン(リスクゼロで得られるリターンを控除)/リスク(標準偏差)
とっているリスクに対してどの程度のリターンが得られているかを判断する。1を上回っていると優秀。
シャープレシオが0.45で1を大きく下回っており、野村インド株投資のリターンはリスクの割に大したことないのが分かります。
これだけ大きなリスクを取っていれば、年率8%ではなく年率22%以上あってはじめて優秀な投資信託だと言えます。
インド株式市場と比較する
運用成績がリスクの割に大したことないのは分かりましたが、そもそも超えるのを目標としていたMSCIインド・インデックスと比べてどうだったのでしょうか。両者の動きを比較してみましょう。
参照:モーニングスター
ここ3年間の運用結果はこちらです。
- 野村インド株投資:70.97%
- MSCIインド・インデックス:118.55%
結果を見れば一目瞭然ですが、野村インド株投資はMSCIインド・インデックスに大きく及ばないことが分かります。
本来は手数料が高い代わりにMSCIインド・インデックスのリターンを大きく上回らなければなりません。ですが、逆の結果となっています。
手数料も高く、運用成果も負けるとあっては、残念ながら野村インド株投資を選ぶ理由はないですね。
インドに投資するアクティブファンドと比較
では、最後にこれまで別記事でも見てきた他のインド株のアクティブファンドとも比較してみましょう。
参照:モーニングスター
比較結果はこちらです。
- 野村インド株投資:70.97%
- ニッセイ・インド厳選株式ファンド:126.92%
- 高成長インド・中型株式ファンド:111.02%
- MSCIインド・インデックス:118.55%
インド関連の投信の中でも圧倒的に最低の成績となっています。やはり野村インド株投資を選ぶ理由はないですね。
それでも運用資産額が大きいのは野村さんの営業力の賜物だと言えます。
まとめ
野村インド株投資についてのまとめはこちらです。
- 41程度のインド株に投資する
- ベンチマークを上回るハイリターンを狙うアクティブファンド
- そのため手数料も高い
- 分配金を出すため資産の運用効率が悪い
- リスクに見合ったリターンは得られていない
- ベンチマークに大きく負けている
- インド関連の投信の中でも低い運用成績
残念ながら野村インド株投資はおすすめできません。新興国に投資したいのであれば他に良いファンドは多くありますので違う商品を検討してみて下さい。
個人的なおすすめファンドは以下のランキングでも紹介していますのでぜひ参考にしてみて下さい。
皆さんもご存知のことと思いますが、現在世界経済の成長を牽引しているのは疑いなく新興国経済となっています。今後も先進国の成長率は低下することが見込まれていますが、新興国の高い成長率は継続することが予想されています。
経済の成長にともなって新興国企業の1株あたりの利益もコロナから順調に回復し再び成長軌道に乗ることが見込まれています。
一方、堅調な経済成長と企業利益とは反対に、新興国株式は軟調に推移し先進国株式に対して割安に推移しています。結果として新興国株式は先進国株式に対して30%程度割安となっており2022年以降は再び新興国株式の時代がくると目されています。
青:新興国株式全体
黄:全世界株式全体
緑:先進国株式全体
強い株式市場というのは移り変わっていきます。2000年代は新興国株式、2010年代は先進国株式でした。2020年代は再び新興国株式の時代が到来しようとしているのです。
そして、新興国株式投資で大きなリターンをだすためには、中でも魅力的な新興国に投資をする必要があります。
また、新興国の個別株は個人投資家にはなかなか分析するのが難しいのではないでしょうか。そこで、新興国株式の分析をし実際に投資している筆者の観点から大きなリターンを望める投資先を厳選してランキング形式でまとめています。新興国投資を行う際に参考にしていただければと思います。